13年間勤めた、弁護士事務所のA先生は私にとってはとてもいい上司でした。
ただ、ほかの秘書たちからは嫌がられていたように思います。
実際A先生が嫌で辞めていく人もいました。
「A先生は嫌だ。とにかく、手がかかる。我がままだし」
仕事とは関係ない、同窓会の手配をさせられたり、遠くの駅に忘れたものを、取りに行かされたり。毎月毎月、先生の飲み代を払いに行くのも私たち秘書の仕事でした。
そんなA先生でしたが、何故か私とは相性が良く、先生から言われたことは素直に従えました。
先生が「あ」といえば、「ん」とは言えませんでしたが、「は」くらいまでは言えたような気がします。
でも一番つらかったのは、刑事事件で強姦事件でした。
A先生はどうしても被害者宅に行くことができなかったようで、私に示談金をもって示談書にサインをもらいに行けというのです。
被害者宅に行くと、被害者女性の親御さんに
「私は、絶対許せません。親としても、それ以前に女性として。」と言われました。
私はひたすらに、頭を下げ
「おっしゃる通りです。私も女性として同意見です。」
と言いました。
すると、いたく感動され、
「遠いところ本当に大変でしたね。ありがとうございます。気を付けて帰ってください」
と言われました。
そのあとの記憶はありません。
とにかく、フラフラになりながら事務所に着いたのだけは覚えています。
でも、これを機にどんな仕事でもある程度動じることなくできることになったので、今ではいい仕事をさせて貰ったと思っています。